S-TTL自動調整

デジタル完全対応、新開発 S-TTLシステム

オート専用お手軽デジタルカメラから、デジタル一眼レフまで、外部ストロボでのTTLオート撮影を可能にした「S-TTL」。
INONが開発したこのS-TTLオート調光ストロボは、カメラメーカーを問わず作動し、しかも高精度の露出制御を行います

ストロボ選びで悩みの少なかったフィルム時代

 TTLとは、「Through The Lens」の略で、「レンズを通る」という意味です。ストロボから発せられた光が被写体に当たって反射し、レンズを通ってカメラ内部のセンサーで計測され、適正露出になるようストロボの発光量をコントロールする、これがTTLオートストロボです。実際に被写体に当たった光の量を計っているので、的確に被写体の露出を求めることができます。
 水中用TTLオートストロボの歴史を紐解くと、1984年に発売された防水カメラ「NIKONOS V」がその始まりで、ニコン純正の水中ストロボSB-102や103に引き続き、各社からNIKONOS V 対応の、水中TTLストロボが発売されました。このNIKONOS V に採用された5ピンの電気コネクタは、その後のフィルム式水中カメラ (防水カメラや防水ハウジング) にも採用され続け、水中ストロボの接続に最も多く採用されています。
 フィルム式一眼レフカメラの場合、水中ストロボ選びには、かなりの柔軟性がありました。ハウジングにニコノスタイプの電気コネクタが装備され、適切に結線してあれば、ニコン純正の水中ストロボSB-105や、イノンZ-220、イノンZ-22など、メーカーや機種を問わず、電気ケーブルを接続するだけでTTLオート調光が可能だったのです。

 

ニコノスタイプの5ピン電気コネクタで、イノンZ-22ストロボを接続したNIKONOS V

 

フィルムで使っていたストロボがデジタルでは使えない!?

 デジタルカメラがダイバーに普及し、水中用TTLオートストロボの事情は大きく様変わりしました。デジタル一眼レフカメラ用の防水ハウジングには、フィルム式カメラ用のハウジングと同じように、ニコノスタイプの5ピン電気コネクタが装備されているものがあります。フィルム式カメラで使用していた水中ストロボを、そのまま5ピンの電気ケーブルで接続して使えると思い接続したところ、カメラにエラー表示が出たり、ストロボは発光しているのに画像は真っ暗だったりといったことが起こったのです。なぜ、フィルム用の水中ストロボがデジタルに使用できなかったのでしょうか?それは、フィルムとデジタルではTTLの制御が異なっているからです。
 フィルム式カメラのTTLオートは、ストロボが1回しか発光しないのに対し、デジタルカメラのTTLオートは2~3回発光するプレ発光タイプを採用しています。フィルム式一眼レフカメラは、シャッターが開くと同時にストロボが発光を開始し、被写体に反射して返ってきた光をフィルムが受けます。フィルム面に反射した光をカメラ内部のセンサーが測定し、適正露出となるまで光を受けたところでストロボの発光を停止させます。このプロセスを1/1000秒ほどの瞬間に行っているのです。一方、デジタルカメラの場合は、撮像素子であるCCDまたはCMOSの光の反射が少なく、フィルムのような反射光を使った方式では正確な露出測定ができません。そこで、シャッターが開く直前に微弱発光(プレ発光)を行い、被写体から返ってきた光をカメラ内部のセンサーで直接測定し、適正露出に必要な光量を計算して、シャッターが開くと同時に本発光するシステムを採用しています。キヤノンのE-TTL、ニコンのi-TTLなどがこの方式にあたります。
 従来のフィルム用のTTLストロボを、プレ発光タイプのデジタル一眼レフカメラに電気ケーブルで接続した場合、プレ発光の信号でストロボがフル発光してしまい、次のチャージが間に合わないままシャッターが開き、本発光の信号がきます。結果、自然光だけの暗い画像となってしまいます。イノンのZ-220ストロボのように、2回発光に対応した機種でも、デジタルのTTLオートには対応していないため、デジタルカメラに使用した場合はマニュアルで発光量を調節するしかなかったのです。

フィルム式一眼レフカメラの場合、シャッターが開くと同時にストロボが発光開始。適正露出になったところで、ストロボの発光を停止させる

フィルム式カメラ用のTTLストロボを、プレ発光タイプのデジタルカメラに電気ケーブルで接続しても、1回目のプレ発光だけに反応するか、制御できずにエラーが出てTTLオート調光はできない

デジタル完全対応S-TTLの誕生

デジタルカメラが登場し、陸上撮影では瞬く間にフィルム式カメラに取って代わったのに対し、水中撮影ではデジタルの普及が遅れていました。その理由は、水中ストロボがデジタルのTTLオートに対応していなかったため、全自動で手軽に撮影することができなかったからです。
 この状況にいち早く対応し、イノンが世に送り出したのが、「S-TTL」オート調光システムを搭載したD-2000ストロボとZ-240ストロボです。
 S-TTLの正式な名称は「光シンクロTTL」。カメラの内蔵フラッシュ光を信号としてストロボに伝達することで、電気信号を使ったカメラメーカーの純正TTLストロボと同じように、TTLオート調光を可能にしています。S-TTLでは、カメラの内蔵フラッシュは、光源としてではなく、S-TTLストロボを発光させるためのコントローラー的な役割となっているのです。
 デジタルカメラの内蔵フラッシュは、本発光の前に、露出計測用のプレ発光を行います。その光を光ファイバーでS-TTLストロボに伝達し、S-TTLストロボが内蔵フラッシュの代わりに被写体に向けてプレ発光します。被写体に反射したプレ発光の光は、カメラのレンズを通過してカメラ内部の測光センサーで計測され、プロセッサーが適正露出となる本発光量を計算します。続いて内蔵フラッシュが本発光すると、その光は光ファイバーで伝達され、S-TTLストロボが本発光するのです。

デジタル完全対応S-TTLの誕生

イノン Z-240/D-2000/S-2000ストロボは、背面のダイヤルを「S-TTL」にセットするだけで、S-TTLオート調光が可能


デジタルカメラの内蔵フラッシュ光は、光ファイバーによって伝達され、
S-TTLストロボが内蔵フラッシュの代わりにプレ発光と本発光を行う

汎用性の高いS-TTL

 S-TTLオート調光システムは、プレ発光タイプのTTL内蔵フラッシュを搭載していれば、コンパクトデジタルカメラでもデジタル一眼カメラでも、メーカーや機種を問わず対応できます。また、S-TTLは光信号で動作するため、光ファイバーが固定できれば、理論上、何灯でもS-TTLオートでの多灯ライティングが可能となります。
 イノンのS-TTLストロボは、ダイバーの間に爆発的に普及した廉価な透明ハウジングでも、シャッターを押すだけで簡単、確実に外部ストロボでの撮影を可能としました。さらにイノンは、キヤノン、オリンパス、ソニー、ニコン、富士フイルム、パナソニックなどのメーカーから続々と新発売されるコンパクトデジタルカメラに対し、アタッチメントレンズや光ファイバーを取り付けるための「マウントベース」と「光Dケーブル・キャップ(ブッシュ)セット」を次々と発売してきました。その対応機種は、既に150を超え、今後も新機種に対応していく予定です。
 さらに、カメラの内蔵フラッシュにクリアフォトフィルムを貼り、可視光線を目に見えない赤外線に変換することで、ハウジングからの内蔵フラッシュ光の漏れを防ぎ、透明ハウジングで起きやすい乱反射や浮遊物などの映り込みなどを防いでいます。
 S-TTLストロボは、デジタルカメラの内蔵フラッシュを制御信号として使うため、デジタルカメラ本体に内蔵フラッシュが装備されていない、キヤノンEOS 5DやニコンD4では、S-TTLオート調光が使用できません。また、内蔵フラッシュが装備されているデジタルカメラでも、内蔵フラッシュをポップアップできないハウジングや、ハウジング側に内蔵フラッシュ光を的確に光ファイバーに伝達する機構のないハウジングには対応できません。カメラやハウジングを選ぶ際、S-TTLストロボが使えるかどうかも重要なチェックポイントです。
 イノンのS-TTLストロボは、プレ発光タイプのTTL内蔵フラッシュを水中で発光できるデジタルカメラシステムであれば、カメラやハウジングを買い換えても、ストロボはそのまま使えます。光ファイバーは水中でも自由に取り外しができるため、2台のカメラでストロボを交換することも可能です。汎用性があり、そして多灯ライティングでも確実に適正露出になるS-TTLは、水中での理想的な外部ストロボの制御方法といえるでしょう。

イノン X-2ハウジングに、Z-240ストロボを4灯光接続

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各種デジカメに対応して発売されているマウントベースと光Dケーブル・キャプセット

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内蔵フラッシュ光を赤外線に変換するクリアフォトシステム

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